DRBD 9.3.1リリース情報

I/O性能向上と、9.2.x系サポートサイクルの今後の見通し

DRBD 9.3系への本格移行フェーズのはじまり

DRBDの開発元であるLINBIT社より、最新版となる DRBD 9.3.1 (および 9.2.17)のリリースがアナウンスされました。

今回のアップデートは、単なる不具合の修正にとどまらず、DRBDの内部アーキテクチャにおける「I/O処理の根本的な近代化」が含まれており、パフォーマンス向上に直結する重要なマイルストーンとなっています。

同時に、既存ユーザーにとって重要な「旧バージョン(9.2.x系)のサポートライフサイクル」に関する公式な見解も示されました。本記事では、新バージョンの技術的なハイライト、弊社環境でのベンチマーク検証結果、そして開発元への確認に基づく今後のロードマップについて解説します。

9.3.1のアーキテクチャ進化:「Compound Pages」への対応

LINBIT社が9.3.x系への移行を推奨する最大の理由が、I/Oハンドリングの近代化です。

DRBD 9.3.1からは、I/OバッファとしてLinuxカーネルのメモリ管理技術である 「Compound Pages(複合ページ)」 を利用できるようになりました。

従来、DRBDが巨大なデータを処理する際、Linuxの標準的な4KBページを大量に束ねて管理する必要があり、これがCPUやメモリアクセスのオーバーヘッドとなっていました。

Compound Pagesに対応したことで、連続した物理メモリを「大きな論理ページ」として一括で扱えるようになります。これによりページ管理のオーバーヘッドが大幅に削減され、ストレージやネットワークへのデータ転送効率(DMA転送など)の向上が期待できます。

※既存のOS環境(RHEL 8など)での効果について
Compound Pagesの仕組み自体は、RHEL 8(カーネル4.18系)等にも以前から実装されています。今回のアップデートは「DRBDの内部コードが、この既存のカーネル機能を活用できるように近代化された」というものです。そのため、現在稼働しているOS環境であっても、DRBDを9.3系へアップデートすることでこの効率化の恩恵を受けることが可能です。

ベンチマーク検証:ソフトウェア処理エンジンの純粋な性能評価

アーキテクチャの進化が実際の処理能力にどう影響するのか、弊社独自にベンチマーク検証を実施しました。

物理ストレージデバイス(SSD等)の遅延や、仮想化ハイパーバイザーのオーバーヘッドによる影響を排除し、「純粋なDRBDソフトウェアエンジンの処理効率」を比較するため、下位デバイスに「RAMディスク(/dev/ram0)」を使用しています。

【検証環境】

  • OS: AlmaLinux 9.x
  • 下位デバイス: RAMディスク (brd モジュール使用)
  • 計測ツール: fio(1MBブロック、iodepth=32、Direct I/O、30秒間の連続書き込み負荷)

検証結果:スループットとレイテンシの比較

バージョン平均スループット平均レイテンシ50ms以上の遅延発生率
DRBD 9.2.171,435 MB/s23.37 ms約 44.0 %
DRBD 9.3.11,995 MB/s16.81 ms約 5.8 %

物理的なI/Oボトルネックが存在しない環境において、9.3.1は9.2.17と比較してスループットが大きく向上しました。また、平均レイテンシが短縮されただけでなく、「50ms以上待たされる遅延」の発生割合が大幅に減少(44.0% → 5.8%)しています。

これは、4KBページの細かな管理による「処理の詰まり」が解消され、I/Oがよりスムーズに処理されていることを示しています。NVMeなどの高速ストレージや広帯域ネットワークを利用する環境、あるいは大容量の再同期(Resync)処理において、このアーキテクチャの進化はシステムの余裕(安定性)に大きく寄与すると考えられます。

※開発元からのフィードバック
この「RAMディスクを用いた純粋なソフトウェア性能の測定結果」をLINBIT社のPhilipp CEOへ共有したところ、社内でも高い評価を受け、非常に良好なデータであるとのコメントをいただきました。

3. 品質向上への取り組み:静的解析ツールの導入

パフォーマンス向上に加え、品質面での堅牢性も強化されています。

今回のリリースサイクルから、DRBDのコア機能(ビットマップデータ構造など)におけるロックやライフタイムのバグを検出するための「静的解析ツール(Static Analyzer)」が導入されました。

これにより、今回のリリースにおいて複数の潜在的な不具合が特定・修正されています。LINBIT社は、今後のすべてのコード変更に対してこの静的解析を適用することを明言しており、特定のクラスのバグ混入を未然に防ぐ仕組みが確立されました。

4. 9.2.x系のライフサイクルと、今後のOSアップデートへの影響

今回のリリース発表において、Philipp CEOより「DRBD 9.2.xシリーズは、2026年9月を最後のリリースとする予定である」とのアナウンスがありました。

現在9.2.x系(あるいは9.0/9.1系)で安定稼働している環境にとって、これがどのような影響を持つのか、弊社からLINBIT社へ直接確認を行い、以下の見解を得ています。

  1. コードの凍結(Active Maintenanceの終了):
    2026年9月をもって、9.2.x系に対する新機能の追加や定常的なバグ修正は終了します。
  2. 既存環境での継続利用とサポート:
    2026年9月以降も、すでに導入済みの9.2.x系を使い続けることは可能であり、LINBIT社からのQA(問い合わせ)サポートは継続されます。
  3. 新規カーネル・OSへの対応終了:
    最も注意すべき点は、2026年9月以降にリリースされる新しいLinuxディストリビューションや、新しいカーネルに対する9.2.x向けの互換性アップデートは提供されないという点です。

今後のシステム運用に向けた推奨事項

現在システムが安定稼働している場合でも、将来的なOSのマイナーアップデートや、セキュリティパッチ適用(カーネルの更新)を行う際、9.2.x系のままでは動作要件を満たせなくなる時期が確実に到来します。

LINBIT社の社内プロダクションシステムでは、すでにDRBD 9.3.1への全面移行が完了しており、安定性が実証されています。
システムの長期的な安定稼働と保守性を確保するため、今後のメンテナンス計画や新規構築・リプレースにおいては、DRBD 9.3.x系への移行を標準的な選択肢としてご検討いただくことを強くお勧めいたします。