
はじめに
Pacemaker運用ツールについて解説する3部作の最終回となる今回は、実際の運用現場で「いざという時にコピペして使える・逆引きできる」実用的な pcs コマンドリファレンスをご紹介します。
第2回で構築したクラスターを安全に運用するためには、日々のステータス確認や、メンテナンス時のフェイルオーバー、障害時の適切な復旧コマンドを把握しておくことが不可欠です。本ページをブックマーク(お気に入り登録)していただき、運用やトラブルシューティング時のチートシートとしてぜひご活用ください。
1. 状態確認(ステータスチェック)
日常の監視や、障害発生時の一次切り分けに最も頻繁に使用するコマンド群です。
| 目的 | コマンド | 解説 |
| クラスタ全体の状態確認 | pcs status | ノードの稼働状況、リソースの現在の配置場所、エラーの有無などを一覧表示します。最も基本となるコマンドです。 |
| リソースのみの状態確認 | pcs resource status | 各種サービスや仮想IP、DRBDなどのリソース稼働状況のみを絞り込んでシンプルに表示します。 |
| 設定内容の確認 | pcs config | クラスタ全体のすべての設定情報(プロパティや制約など)を表示します。 |
| 特定リソースの設定確認 | pcs resource config [リソース名] | 指定したリソースの起動パラメータ(タイムアウト値やインターバルなど)や設定を確認します。 |
2. リソースの操作・フェイルオーバー
意図的にサービスを停止・起動したり、別のノードへサービスを移動させたりするためのコマンドです。
| 目的 | コマンド | 解説 |
| リソースの手動起動 | pcs resource enable [リソース名] | 停止している指定リソースを起動させます。 |
| リソースの手動停止 | pcs resource disable [リソース名] | 稼働中の指定リソースを安全に停止します。 |
| 手動フェイルオーバー | pcs resource move [リソース名] [移動先ノード] | 指定したノードへリソースを移動させます。実行後、自動的に「Location制約」が追加されます。 |
| 移動制約の解除(重要) | pcs resource clear [リソース名] | move コマンドによって追加された制約を解除し、元の自動制御に戻します。手動フェイルオーバーのテスト後には必ず実行してください。 |
3. 障害復旧・エラークリア
監視エラー等でリソースが停止した際、Pacemaker内部に記録されたエラー状態(フェイルカウント)をリセットして復旧を試みるコマンドです。
| 目的 | コマンド | 解説 |
| エラー状態のクリア | pcs resource cleanup [リソース名] | リソースのエラー履歴をリセットし、再起動・再検出を試みます。DRBDの同期復旧後などによく使われます。 |
| 特定ノードのエラークリア | pcs resource cleanup [リソース名] node=[ノード名] | 特定のノードに残っている該当リソースのエラー履歴のみを狙ってクリアします。 |
4. メンテナンス時のノード操作
OSのアップデートやハードウェア保守など、ノード自体を一時的に切り離して作業を行う際に必須となるコマンドです。
コマンド群です。
| 目的 | コマンド | 解説 |
| クラスタ全体をメンテナンスモードに | pcs property set maintenance-mode=true | Pacemakerによるリソースの監視と自動フェイルオーバーをすべて一時停止します。リソース自体は稼働し続けます。 |
| 全体のメンテナンスモード解除 | pcs property set maintenance-mode=false | 作業が完了した後、Pacemakerの自動制御(通常の監視状態)を再開させます。 |
| 特定ノードをメンテナンスモードに | pcs node maintenance [ノード名] | 指定したノードのみ、Pacemakerの監視と制御の対象外にします(対象ノードの監視が一時停止します)。 |
| 特定ノードのメンテナンスモード解除 | pcs node unmaintenance [ノード名] | 対象ノードのメンテナンス状態を解除します。 |
| ノードを待機(退避)状態に | pcs node standby [ノード名] | 指定ノードをスタンバイ状態にします。稼働中のリソースは他の健全なノードへ自動で無停止移動(退避)するため、安全なOS再起動が可能です。 |
| ノードの待機(退避)状態を解除 | pcs node unstandby [ノード名] | 退避させていたノードのスタンバイ状態を解除し、クラスタのホストとして復帰させます。 |
| クラスタサービスの全停止 | pcs cluster stop --all | 全ノードのPacemakerおよびCorosyncサービスを一括で完全に停止します。 |
💡 ワンポイントアドバイス:Tabキーによる入力補完
pcsコマンドは強力な入力補完をサポートしています。例えばpcs resourceまで入力して Tabキー を2回押すと、存在するリソース名が補完・一覧表示されます。長いリソース名や複雑なオプションを入力する際、スペルミスを防ぎ確実なオペレーションが可能になるため、積極的に活用してください。
5. 【応用編】設定のバックアップとエクスポート
RHEL 8/9などのモダンな環境では、XMLを直接触ることなく、安全に設定のバックアップや移行を行うことが可能です。
- クラスター設定の一括バックアップ
# pcs config backup cluster_backup(現在のクラスター設定全体をアーカイブとして安全に保存します) - 設定のコマンド形式エクスポート(RHEL 8.7以降)
# pcs resource config --output-format=cmd(現在のリソース構成を、再構築可能なpcsコマンド群のテキストとして出力します。別環境への移行や構成のコード化に非常に便利です)
Pacemakerと pcs コマンドを正しく使いこなすことで、複雑なHAクラスタの運用を安全かつシンプルに行うことができます。全3回にわたる本連載が、皆様の安定したシステム運用の助けになれば幸いです。